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ボーリング玉のネックレス

2023-01-11

辻本達也

 中学生の頃、友人たちと、中浦和駅のボーリング場に行った。まず用紙に名前を書く。坂本というやつは「サカボン」と呼ばれていたから、サカボンと記入した。 ボールを持ち寄って、レーンに向かう。表示を見ると「サカボシ」と書かれていた。どうしてか、そのことで皆んなで腹を抱えて笑った。彼はそれ以降「サカボシ」と呼ばれ、「サカボン」と呼ばれることはなくなった。

 『すばらしい人体』(山本健人_ダイヤモンド社)によれば、体重が50キログラムなら、頭部は5キログラムあり、人体はそれを常に運んでいる状態にある。だからぼくはボーリング球を体のてっぺんに載せて、歩いたり、スマホを見たりしている。

 このことを知って、数日経って、そのことが脳裏にあったからだろう、スマホを見ている時の「頭の重さ」が気になった。頭の重さが気になって、さらに、異様な姿勢をしている自分に驚愕した。

 ぼくはパイプ椅子に座っていた。机の上に手を置いて、スマホを見ていた。首が顎から前に出ている。上半身はみぞおちの上で折れ、アルマジロのように丸まっている。だから、当然、ボーリングの球は、体のあるべき中心軸からずいぶん前に飛び出していた。

 球がちぎれて落ちないように支えているのは「首」だ。特に後頭部。重たい球が、工学的に言ってどうにも有り得ない位置に飛び出しているから、後頭部直下の頚椎にその重みを集中させていた。

 背中もだ。頭が前に突き出されているから、どうしたって、その重みで背中は曲がる。曲がらざるを得ない。肩甲骨が内巻きになる。肋骨が閉じる。胸骨が後ろに突き出す。

 とにかく、分散しているべき重みが、2点に集中していた。それが一気に分かった。どうして今までこんな非合理な仕方で、過ごしてこれたのだろう。のぼせやすさはたぶんここから来ている。重さを2つの部署だけに担わせているから、彼らが仕事から解放される時はない。回復もしない。たぶん、機能停止というか、その部署が、循環の「通行止め」みたいになっている。

 ペッパーくんというソフトバンク社のロボットがある。あれは、妙に背筋が伸びていて、むしろ背骨はないかのようだ。C3POもそう。人型ロボットが、頭を前に出して上半身を丸めていたら、エネルギー効率が悪くて仕方ない。必要な腱や筋も増えるだろう。そんな設計はしない。

 ただ、ぼくは手で物を持って眼でそれを見る。目は腹方向にしか付いていないし、手も背面では力を発揮できない。どうしたって、原理的に腹と背中には非対称性がある。

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